はじめに
戦争は、憎むべき、恐ろしく悲しい出来事です。
昨日まで笑い合っていた友人や家族を、一瞬で奪ってしまう――。
想像するだけで胸が締めつけられます。
終戦記念日を前に、戦争と平和を描いた名作小説を5作品ご紹介します。
いずれも、読むたびに心を深く揺さぶられる物語です。
『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
1942年、激化する独ソ戦を旧ソ連側の視点から描いた物語。
モスクワ近郊の村で母と暮らしていた少女・セラフィマの平穏な日々は、ドイツ軍の急襲によって一瞬で崩れ去ります。母を殺され、自らも命の危機に瀕する中、ソ連軍の女性兵士・イリーナに救われます。
やがてセラフィマは狙撃兵養成学校へ。母を撃ったドイツ人狙撃手、そして母の遺体を焼き払ったイリーナへの復讐を胸に、過酷な訓練に挑んでいきます。
本作は2022年本屋大賞を受賞し、第11回アガサ・クリスティー賞でも史上初となる選考委員全員の満点評価を獲得した話題作。重厚なテーマながら、登場人物それぞれの背景のドラマ性と、戦場で必死に生き抜く姿が圧倒的な臨場感で描かれています。
そして、タイトルにある「敵を撃て」の“敵”とは誰なのか――その答えにたどり着いたとき、あなたの心も深く揺さぶられるはずです。
『永遠の0』百田尚樹
「娘に会うまでは死ねない。妻との約束を守るために」――そう言い続けた男がいた。
しかし最終的に、彼は自ら零戦に乗ることを志願し、命を落とす。いったいなぜ、その道を選んだのか。
終戦から60年後の夏。彼の孫・健太郎は、その謎を解き明かすため、祖父の足跡を辿り始める。
元戦友たちの証言を集めていく中で浮かび上がったのは、「天才だが臆病者」という意外な人物像。
そして一途に家族を想いながらも、戦争の渦に巻き込まれていった特攻隊員の姿だった。
読み進めるほど胸を締めつけられ、最後には涙を誘われる一冊です。
『羊は安らかに草を食み』宇佐美まこと
記憶が薄れてゆく中で、けして消えない絆を描いた感動作。
認知症を患う友人・益恵の人生を振り返るため、アイと富士子は彼女を旅へと連れ出します。
訪れるのは、益恵がかつて暮らした大津、松山、五島列島。各地で彼女を知る人々から話を聞くうちに、終戦後、満州から引き揚げてきた益恵の壮絶な過去が明らかになっていきます。
彼女は敗戦直後の混乱の中、どのように生き延びたのか。そして、長年胸に秘めてきた秘密とは何なのか。
序盤は、戦後の劣悪な環境や厳しい現実の描写に胸が詰まり、読む手が止まりそうになりました。けれど終盤、現在の友人たちとの絆が物語をやさしく包み込みます。
読み終えたとき、まるで爽やかな風が吹き抜けたような、不思議とかろやかな読後感が残りました。
『戦場のコックたち』深緑野分
アメリカ軍兵士の視点から戦争を描いた、異色のミステリ長編。
19歳のティムの任務は、特技兵――つまりコック。
ノルマンディー上陸作戦で初陣を迎えた彼の主な武器は、ライフルではなくナイフとフライパンです。個性的で頼れる仲間たちとともに、戦場で巻き起こる奇妙な謎の解明に挑んでいきます。
物語序盤は、非日常の中にユーモアが漂う「日常ミステリ」の雰囲気。けれど、物語が進むにつれて戦争の悲惨さが静かに、しかし確実に迫ってきます。
膨大な知識に裏打ちされた戦場描写は圧巻で、本当に日本人が書いたのかと驚かされる一冊です。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』汐見夏衛
私が愛した人は、特攻隊員でした――
中学2年生の百合は、親と喧嘩して家出した矢先、70年前の戦時中の日本にタイムスリップしてしまいます。混乱する彼女を助けてくれたのは、誠実で心優しい青年・彰。やがて二人は惹かれ合っていきますが、彰は出撃命令を待つ特攻隊員でした。
映画化もされた話題作で、ライトノベル調の読みやすい文章と恋愛要素が魅力。恋愛小説や戦争物語が初めてという中高生にもおすすめです。
個人的には、彰の妻子持ちの同僚が家族に宛てた手紙のシーンで涙が止まりませんでした。家族愛を描いた作品に弱い方にも、特に心に響く一冊です。
まとめ
戦争を描くことは、その時代を生きた人々の壮絶な人生を私たちに伝えてくれます。
命の危機に直面したとき、人間の強さや弱さが鮮明に浮かび上がります。
どの作品も、読み終えた後には、平和な日常の尊さを改めて感じさせてくれます。戦時中に懸命に生き抜いた人たちがいたからこそ、今の私たちの命と暮らしがある――その事実を忘れてはいけません。
今回ご紹介した5冊は、それぞれ異なる視点から戦争と平和を描いています。
気になる作品があれば、ぜひ手に取って、その物語に込められた想いを感じてみてください。
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