【感想】「死んだ山田と教室」|スピーカー越しの青春が胸を打つ、不思議で切ない物語

【読書記録】

死んだはずの友達が、スピーカーから話しかけてくる──

ひらぱ
ひらぱ

こんな奇妙な青春小説、読んだことがない。

金子玲介さんの『死んだ山田と教室』は、男子高校生たちのごく普通の日常に、「死者」が入り込んでくる物語です。でも、ホラーではありません。
むしろ、どこか温かくて、切なくて、やたらリアル。

あらすじ|スピーカーに憑いた山田と、変わらない教室

あらすじまとめ
夏休みの終わり、高校2年E組の人気者・山田が、交通事故で亡くなる。
誰からも好かれていた彼の死に、クラスは深い悲しみに沈む。
ところが2学期初日、教室のスピーカーから「山田の声」が響く──。山田はスピーカーに“憑いて”しまったらしい。
話すことと聞くことはできるが、触れることも動くこともできない。
けれど、生徒たちは驚きつつも彼を受け入れ、ふたたび日常が始まる。          進級、卒業、進路…。変わっていくクラスメイトたちと、変われない山田。
やがて山田の存在は、少しずつ「風化」していく──。

不思議なのにリアル|男子校の“空気感”が抜群

この物語の面白さのひとつは、男子校ならではの“雑談感”がとにかくうまいこと。
ふざけあったり、スピーカー越しにくだらないやり取りをして爆笑したり、
山田がいた頃と同じ「馬鹿な日々」が続いていく。

ひらぱ
ひらぱ

その“どうでもいい日常”のなかに、ぽつりと切なさが滲むんです。

誰かの本音が漏れた瞬間、
山田が「本当は寂しい」と呟いたとき、
読者の心にもじわりと響いてくる。

青春の「延長戦」としての物語

読後に残ったテーマ
・喪失と向き合うということ
・思い出は永遠じゃないという現実
・“変われない存在”の孤独
・でもそれでも、つながりたいという願い

物語が進むにつれて、山田を取り巻く状況は静かに変化していきます。
かつて山田と一緒に笑っていた仲間たちは卒業し、進学し、離れていく。
そして教室には、新しい生徒たちが入ってきて──

ひらぱ
ひらぱ

山田は、今も教室のスピーカーで「誰かの声」を聞いている。

ラストの描写は、静かで、でも心にずしんと残る余韻がありました。
これは、「青春を失った」すべての人のための、もうひとつの物語なのかもしれません。

おすすめしたい読者

💡こんな人におすすめ
✔ 普通の青春小説に飽きてきた方
✔ 男子校・学園ものが好きな方
✔ 死や喪失をテーマにした作品に惹かれる方
✔ 静かな読後感を味わいたい方

物語の奇抜さに驚きつつ、読み終えたあとに残るのは「懐かしさ」と「やさしさ」。
切なくて、ちょっと笑えて、じんわり泣ける。
そんな不思議な読書体験でした。

まとめ|生きている者と、そうでない者の間に

『死んだ山田と教室』は、ただのファンタジーでも、ホラーでも、青春小説でもありません。
「死んだ人と過ごす日常」という突飛な設定の中に、
人の気持ちの移ろい、忘却、そして再生が丁寧に描かれていました。

「いつか忘れられてしまうかもしれない」
それでも、「一緒に笑えた日々」は確かにあった。

ぜひ多くの方に読んでほしい一冊です。

書誌情報

書籍データ
・書名:死んだ山田と教室
・著者:金子玲介
・出版社:講談社
・発売日:2024年5月
・ジャンル:青春・現代小説
・ページ数:300ページ
・ISBN: 9784065348314

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