はじめに
夏のお盆休み、少しゆったりとした時間を過ごしたいと思い、読む本を探していました。
そんなときに選んだのが、瀬尾まいこさんの『ありか』です。
私がこれまで読んだ瀬尾まいこさんの作品は、2019年本屋大賞受賞作の『そして、バトンは渡された』だけ。職場の同僚からは、2024年に映画化もされた『夜明けのすべて』もおすすめされていましたが、まだ手に取る機会がありませんでした。
瀬尾まいこさんの作品には、どこか心を温めてくれる雰囲気があります。今回の『ありか』も、まさに「ほっこり小説枠」として、夏休みの読書にぴったりだと感じ、手に取ったのがきっかけです。
書籍情報
- タイトル:ありか
- 著者:瀬尾まいこ
- 出版社:水鈴社
- 発行年月:2025年4月
- ジャンル:家族・親子小説、ヒューマンドラマ
- ページ数:366p
あらすじ(ネタバレなし)
シングルマザーの美空と、5歳の娘・ひかりには、とっておきの楽しみがあります。それは毎週やってくる「水曜日」。その日は、美空の義理の弟が夕食を一緒に食べに来てくれるのです。気さくで面倒見のいい義弟の存在は、美空とひかりにとって、日々の暮らしを支えてくれる大切な存在になっています。
一方で、美空には実の母親との関係に悩む一面もあり、その心の距離感が物語の中で静かに描かれていきます。職場の同僚・宮崎さんや、保育園で出会ったママ友・三池さんなど、周囲の人々との交流も重なりながら、彼女の心の奥にある思いが少しずつ浮かび上がっていきます。
本作は、大げさな事件や劇的な展開があるわけではありません。むしろごく普通の日常の中にある「ささやかな幸せ」や「人とのつながり」、そして親子や家族の関係性の揺らぎを、温かくも繊細に描いた物語です。
感想
私が作中で特に印象に残ったのは、母親との関係に悩む美空に対して、義理の弟・颯斗が語ったこの言葉です。
子供は未来の塊なのに。ひかりだって、いつも信じられないくらいすてきなものをみせてくれるじゃん
この一言には、子どもという存在が持つ希望や可能性、そしてその尊さがぎゅっと詰まっているように感じました。
私自身、二児の母として日々子どもたちと向き合っていますが、その姿に驚かされることばかりです。新しい言葉を覚えたり、小さなことに一生懸命取り組んだり――そんな成長の瞬間に立ち会うたびに、未来の広がりを感じます。そして、子どもたちがただ笑ってくれるだけで、私も自然に笑顔になり、日常の中の幸せに気づかされます。
颯斗の言葉は、作品を通して描かれる「日常の尊さ」を象徴しているようでした。改めて、忙しさに追われる日々の中でも、子どもと過ごす時間や何気ない笑顔を大切にしたい――そう思わせてくれる場面でした。
おすすめポイント
- 日常の温かさを振り返ることができる
ドラマチックな展開や大きな事件はありませんが、その分「日常の中の幸せ」をじんわりと再確認できる作品です。毎日の忙しさに追われる中で忘れがちな、家族や周りの人との絆を自然と思い出させてくれます。
- 心をじんわりと癒してくれる
ひかりが「ママ大好き!」と素直に伝える姿には、大事に育ててもらっている温かさがにじみ出ていて胸を打たれます。読み進めるほどに、母を思うその純粋な気持ちに触れて、心が穏やかになれるのもこの作品の魅力です。
- 子育て中の読者への共感ポイントが多い
子育ては楽しいことばかりではなく、子どものこだわりに振り回されたり、思い通りにいかず泣かれると親として途方に暮れることもあります。そんな苦労を描きつつ、最終的に「でもやっぱり子どもは可愛い」と思える美空の姿には、子育て中の読者なら深く共感できるはずです。
まとめ
瀬尾まいこさんの『ありか』は、大きな事件が起こるわけではなくても、ささやかな日常の中にある小さな幸せを大切に抱えて生きる人々を描いた作品でした。
母親からの無理な要求に応えられず悩む美空が、自身も母となった今、「本当に大切にしたいものは何か」「自分の居場所はどこなのか」と問いかけ、見つけ出した“答え”には強く共感し、勇気をもらえました。そこにはまさに、タイトル『ありか』が示す意味が込められているように感じます。
日常の慌ただしさに少し疲れたとき、立ち止まってほっと一息つきたいときに、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
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