【感想】『小説』野崎まど|読むことに人生を捧げた少年の物語

本屋大賞ノミネート作品

こんな人におすすめ📖

✔ 本を読むことが好き
✔ 読むだけで本当にいいのかと悩んだことがある
✔ 小説の“本質”に触れたい
✔ 野崎まど作品が好き・挑戦的な構成が好き

野崎まどさんの『小説』という作品は、読むという行為に真っ向から向き合った作品です。
タイトルだけを見ると極端にシンプルですが、内容はその奥行きを裏切らない濃密な一冊でした。

「読むこと」と「書くこと」の間にある深い断絶

主人公・内海集司は、5歳で『走れメロス』を読んだことをきっかけに、小説に取り憑かれたように「読むこと」に没頭していきます。
やがて、同じく小説を愛する外崎真と出会い、2人は“モジャ屋敷”と呼ばれる不思議な場所で、無限に本を読むような日々を送ります。

ひらぱ
ひらぱ

本があるだけで、あんなにも世界は豊かになるんだなあと思いました

物語の前半では、小説に魅了された少年たちの成長と友情が丁寧に描かれます。
読書を愛する人であれば、この時点で「これは自分の物語だ」と感じるのではないでしょうか。

次第に浮かび上がる「読む側」と「書く側」の違い

物語が動き出すきっかけ
高校時代、外崎が文学賞を受賞したことをきっかけに、2人の関係に微妙な変化が生じます。
内海は読者としての道を、外崎は作家としての道を歩み始めるのです。

才能の差、進む方向の違い、理解できない気持ち。
大切な友人でありながらも、2人は少しずつすれ違っていきます

読んでいる私自身も、心のどこかで「書けない読者」としての悔しさを内海と共有していました。
だからこそ、彼が何度も「読むこと」にしがみつこうとする姿に、強く共感してしまいました。

読むことは、劣った営みなのか?

ひらぱ
ひらぱ

読むだけの人生では、何かが足りないのだろうか…

内海は読者として、自分の立場を確かめようとします。
けれど、外崎は創作の世界へと旅立ち、やがて2人の距離は埋めがたいものとなっていきます。

この構図は、読者である私たちに「あなたはどうですか?」と問いかけてきます。
“読むだけではだめなのか”と悩んだことのある人にとって、この物語は決して他人事ではありません。

後半は幻想的な世界へ|現実と虚構の境界線が消えていく

物語の中盤以降、現実から離れた世界が広がっていきます。
そこにはフィクションそのものを象徴するような存在が登場し、物語は新たな相貌を見せ始めます

ここがすごい!
✅ 世界観が大きく変わる構成の妙
✅ 小説という形式に対する深いメタ視点
✅ 読者が試されているような感覚

現実と幻想が交錯し、時間も空間も曖昧になっていく中で、内海の“読むこと”への執着はますます際立ちます。
そして最後には、読者自身の読書体験がまるごと揺さぶられるような感覚を味わうことになります。

読むことへの“覚悟”を問われる作品

物語を読み終えて、私はしばらく言葉を失いました
読みながら何度も「これ、自分のことじゃないか」と思ったからです。

書けない自分、読むだけの自分、でも本を読むことがやめられない——
そんな気持ちを抱えながらこの本を手に取った人には、間違いなく刺さる作品だと思います。

まとめ|読むという行為の強さと美しさ

野崎まどさんの『小説』は、読書という行為をここまで真剣に描いた作品です。
読むだけではいけないのか? それでも読むことに意味はあるのか?
その問いに向き合いたいすべての人に、この本を届けたいです。

読むだけの人生でも、胸を張っていい。
この物語は、そう教えてくれた気がします。

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