【感想】『夏期限定トロピカルパフェ事件』|甘さの中にひそむ静かなゾクッ

ミステリー

作品情報

  • タイトル:夏期限定トロピカルパフェ事件
  • 著者:米澤穂信
  • 出版社:創元推理文庫
  • ジャンル:日常ミステリ/青春小説/連作短編集
  • シリーズ:小市民シリーズ 第2作

あらすじ(ネタバレなし)

かつて「知恵を武器に暗躍」していた高校生、小鳩常悟朗と小佐内ゆき。彼らは過去のしがらみを捨て、「小市民」として慎ましく暮らすことを誓い合った――はずだった。

夏休み、訪れた店で出会うさまざまな人々、ふとした会話の中にひそむ違和感。やがて小さな謎がいくつも重なり合い、思いがけない真相へとたどり着く。

淡い青春の空気の中で描かれる、甘くてほろ苦い日常ミステリ。

感想と印象に残ったポイント

✅ 前作より「人の闇」が近づいてくる

『春期限定いちごタルト事件』では、小さな謎をスナック感覚で楽しめる印象でしたが、本作では「ちょっと怖いな」「ぞっとするな」という感情が何度か湧きました。

謎解きそのものは大きな事件ではなく、誰かが死ぬわけでもありません。それでも、ちょっとした違和感や登場人物の行動の裏にある「思惑」が徐々に明かされていく過程がとてもスリリングでした。

それらを丁寧に拾い上げていく小鳩くんの視点が心地よく、知的な楽しさと不穏さが共存しているのが魅力です。

✅ 小鳩と小佐内の距離感が絶妙

小鳩と小佐内の、独特で絶妙な距離感は本作でも健在です。

どこか噛み合わないようでいて、ふとした瞬間に見せる抜群のコンビネーション。お互いを気にかけているのに、素直になれない。そのもどかしさが、読んでいてたまらなく愛おしいのです。

派手な恋愛要素はありませんが、じわじわと心に染み入るような関係性の描写に、気づけばページをめくる手が止まらなくなっていました。

✅ 夏の空気とパフェの甘さに潜む「ざわざわ」

タイトルに「トロピカルパフェ」とある通り、登場する洋菓子の描写も本作の魅力。マンゴー、パッションフルーツ、カラフルなゼリー…読んでいるだけで、目の前にパフェが浮かびそうになります。

けれど、その甘い世界の中にある種の冷たさや、人間関係のすれ違いが交じり合っていて、作品全体に「不穏な風」が吹いているのを感じました。

暑さや冷房、汗、氷菓子など「夏の質感」が丁寧に描かれており、まさに“読む体感ミステリ”といった印象です。

まとめ:静かにゾクっとする、ひと夏のミステリ

『夏期限定トロピカルパフェ事件』は、青春小説でありながら、静かなサスペンスと心理劇を楽しめる一冊。

読み終えた後に、「あの時のあのセリフは、そういう意味だったのか」と思い返して背筋が冷たくなるような感覚もあり、読書体験としてとても充実していました。

シリーズ2作目として、小鳩と小佐内の関係も少しずつ進展していて、次作以降がますます気になる展開。日常の中に仕掛けられた“甘くて冷たい謎”を楽しみたい方に、ぜひおすすめしたい作品です。


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