存在のすべてを / 塩田武士

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ひらぱ
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こんにちは、ひらぱです。
本屋大賞熱はまだ続きます…どの作品を読んでもはずれなし!
今回はこちらのノミネート作品をご紹介します。

存在のすべてを / 塩田武士(朝日新聞出版)

あらすじ

平成3(1991)年に神奈川県下で発生した「二児同時誘拐事件」から30年。
当時警察担当だった大日新聞記者の門田は、令和3(2021)年の
旧知の刑事の死をきっかけに、誘拐事件の被害男児の「今」を知る。

彼は気鋭の画家・如月脩として脚光を浴びていたが、
本事件最大の謎である「空白の三年」については固く口を閉ざしていた。
異様な展開を辿った事件の真実を求め、地を這うような取材を重ねた結果、
ある写実画家の存在に行き当たるが…

出版社ホームページより

こんな人におすすめ

  • ジャーナリストの仕事に興味がある人
  • 絵やアートが好きな人
  • 重厚な人間ドラマを読みたい人

登場人物

こちらの作品、登場人物が多いのですが、主要人物を以下にまとめます。

・門田次郎

 「大日新聞」の記者。
 駆け出しのころ「二児同時誘拐事件」を担当し、事件担当刑事の中澤と交流を深める。
 事件が未解決に終わってから30年、中澤の死後に、
 再度事件の真相を追うことを決意する。

・中澤洋一

 神奈川県警刑事。
 「二児同時誘拐事件」では、身代金受け渡しにあたって持参人への指導を担当した。
 定年後も、事件のことが忘れられず、一人で捜査を行っていた。
 門田とは、ガンプラをきっかけにして交流を深める。

・如月脩

 SNSで人気の写実画家。
 週刊誌で、素顔を公開されるとともに
「二児同時誘拐事件」の被害者だったことが暴露される。
 本名は、内藤亮。

・土屋里穂
 
 以前は百貨店での画廊で働いていたが、退職して
 現在は父親が経営する新宿の「わかば画廊」を手伝う。
 かつての内藤亮(如月脩)の同級生。

『存在のすべてを』の感想

新聞記者・門田が「書く」もの

新聞記者の門田の心の中では、刑事の中澤からの生前の言葉が
たびたび反芻されるも、彼にはその答えが見つけられずにいました。

「門ちゃんは何でブンヤやってんの?」

そして終盤、「二児同時誘拐事件」の真相を追うなかで出会った
絵画の関係者からも、こう問われます。

「なぜ書くんですか?」

この質問は、真相にたどり着くための最後の試練だったといえます。
覚悟を決めた門田は、こう答えるのです。

「私はきちんと人間を書きたい。(中略)釈迦に説法ですが、私はこう思うんです。人には事情がある、と」
「私は、人間を書きます」

『存在のすべてを』本文より

事実を正しく伝えることが、記者の役割ともいえます。
しかし、事実のその先にある、事件関係者の内面にも目を向けて、書くということ。
ジャーナリストとしての門田の熱意に、しびれました。

「至高の愛」の物語

本書の帯の推薦文の一つに、こう書かれていました。

「衝撃の誘拐事件から始まる展開に心拍数は上がったままだ。これは「至高の愛」の物語」
(久米 宏氏)

あらすじから、事件を追うミステリーものかと思っていたため
この一文を見て疑問に思いました。
「至高の愛」?恋愛要素があるのかな?

しかし、読んだあとに納得しました。これは確かに「愛」を描いている作品だと。
特に「空白の三年間」のエピソードを読むと、胸が熱くなって自然に涙が…。
すべては、「絵」につながっているんですね。

「存在のすべて」とは

作品を読み終わった後は、このタイトルが秀逸すぎて震えました。

作品のテーマに、写実画が出てくるというだけでは、決してありません。

真実を追い求める記者と刑事。
目の前の対象を描く画家と、それを支える人物たち。
その一人一人の存在のすべてを、描ききった作品だと私は思うのです。

事件の「空白の三年間」のおわりに、こんな場面があります。
七歳になった内藤亮が、言われた言葉を引用します。

「これから世の中がもっと便利になって、楽ちんになる。(中略)だからこそ『存在』が大事なんだ。(中略)それは絵の話だけじゃなくて、考え方、生き方の問題だから」

『存在のすべてを』本文より

自分を想ってくれている人を、大切にすること。
大切な人たちの話を、真摯に聴くこと。
それこそが、「『存在』が大事」ということであり、作品のタイトルにも繋がっていくのだと思われます。

絵を描く以前の話として語られた言葉が、読者の私たちの心をうちます。

まとめ

今回は、2024年本屋大賞ノミネート作品の『存在のすべてを』をご紹介しました。
やっぱり一年に一回の、読書家のお祭りである本屋大賞の作品は、とても面白いですね。
書店員の方たちは通常業務もこなした上で、数々の作品を読んで、ノミネート作品を投票してくださっているんですよね?
本屋大賞に関わる書店員の方々にも、頭が下がる思いです。
そのありがたみも噛みしめて、まだ本屋大賞作品を楽しみたいと思います!

ひらぱ
ひらぱ

まだ未読のノミネート作品もありますので、読了したらまた感想を書きますね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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